柄谷行人 『ハッカー宣言』の書評

著者が目指すのは一言でいえば、現代の情報社会における『共産党宣言』を書くことである。労働者階級は、かつてのように階級闘争の主体ではない。それにかわって、著者は「ハッカー階級」を見出す。

ハッカーは、コンピューターに侵入・破壊を行う者を指すが、本書ではもっと広く、知的な情報生産に従事する者一般を意味している。それに対して、情報を独占し所有する支配階級(ベクトル階級)がある、と著者はいう。現代の階級は、情報の生産と所有をめぐって形成される。

ドゥルーズの影響を受けた著者の表現は、抽象的で、具体的なイメージに乏しい。しかし、それは、必ずしも欠陥ではない。旧来と異なる今日の階級や階級闘争は、旧来の言葉で語ることができないのだ。